2006年7月に、松井証券は2007年春を目処に夜間取引に参入することを発表していました。いわゆるPTS(私設取引システム)です。そのPTSは当初、夜間取引市場として使われるはずだったのでした。
しかし、2007年1月20日、松井証券はPTSを東京証券取引所と同じ時間帯(午前9時―午後3時、昼休み含む)に開くと発表。方針を変更しました。以下、松井証券のウェブサイトのPDFからの抜粋です。
平成19年1月20日
各 位
東京都千代田区麹町一丁目4番地
松井証券株式会社
代表取締役社長 松井 道夫
(東京証券取引所第一部:8628)問合せ先:取締役総務企画部長 関根 敏正
TEL:03(5216)8650PTS開設による即時決済取引の取扱いの見直しについて
~「ミラー方式」(日本初)で日中に取引、高い資金効率での取引が可能~
松井証券は、平成18年7月28日に発表いたしましたPTS(私設取引システム)*1開設による即時決済取引*2の取扱いにつきまして、見直しを行いましたことをお知らせいたします。これに伴いまして、取引開始予定は今夏に変更となります。1. 価格決定の方法は「ミラー方式」(日本初)
価格決定の方法を、オークションからクロッシング(市場価格売買方式)に変更いたします。具体的には、取引所の時価で買いと売りの注文を随時に成立させる、当社独自の「ミラー方式」となります。PTSにおいて本方式を導入するのは日本初の試みです。
「ミラー方式」は価格形成機能を持たないため、流動性の低いオークションにおいて憂慮される、相場操縦などの作為的な相場形成の問題は生じません。つまり、オークションのPTSを運営するにあたり、最大のネックであった不公正取引の問題は「ミラー方式」では大幅に低減されます。
2. 取引時間は日中
取引時間を、夜間から日中(取引所の立会時間に準ずる)に変更いたします。即時決済取引の利点は「即時に現金化できること」であり、お客様の資金ニーズは日中の方がはるかに大きいこと、売買停止措置を取引所に準じて行えること、コールセンターの効率的な運営が可能なことなどを勘案し、取引時間を日中といたしました。
3. 即時決済取引により高い資金効率での取引が可能となり、流動性を確保
即時決済取引とは、取引所の普通取引で3日間のタイムラグがあった約定と受渡が同時に行われる取引です。即時決済取引により投資家が株式の売却を行った場合、売却代金は即時に受け渡されることから使途の制約を受けないため、例えば日計り取引*3の売却代金を同日中に同一銘柄の買付代金に充てることも可能です。
つまり、即時決済取引を利用すれば、従来に比べてはるかに高い資金効率での取引が可能となり、結果として、アクティブに取引を行うお客様に従来以上の利便性を提供すると同時に、PTSの流動性を高めることができます。仮に、回転売買が加熱した場合も、「ミラー方式」を採用するため、信頼性の高い価格での取引が実現されます。
松井証券は、今後も個人投資家の利益に資するサービスの拡充に努めてまいります。
以上
*1 本スキームは、内閣総理大臣より「証券会社の私設取引システム運営業務の認可」を受けた上で実施いたします。
*2 松井証券では、即時決済システム及び「ミラー方式」による価格決定方法に関する特許を出願中です。
*3 同日に同一銘柄の「買付(売却)→売却(買付)」を行う取引。取引所の普通取引の場合、日計り取引の売却代金を同日中に同一銘柄の買付代金に充てることは差金決済に該当いたします。差金決済は、法令により禁止されています。
松井証券の新しいPTSのメリットは、おそらく同一銘柄のループトレードがいくらでもできるようになり、現物株の取引における差金決済禁止の煩わしさがなくなるということでしょう。
「既存の証券取引所」のシステムは下記のようになっています↓
既存の証券取引所(東証など):株式の場合、受渡しは、約定後、約定日を入れて4営業日後に行われる。それゆえに下記の面倒さがあります。
1・株を売っても口座から現金をすぐに引き出すことができない。
2・配当権利日がわかりにくい←例えば3月31日に決算の会社があったとして、3月31日に株を買っても配当はもらえない。受け渡しに時間がかかるため、株主権利確定日の4営業日前が「権利付き最終買売日」となる。「権利付き最終買売日」までに株を買わないと配当がもらえない。
3・デイトレードに制限がある・・・現物株の差金決済は禁止されているため、日計り取引に制限がある。同じ資金で一日のうちに同一銘柄を「買付→売却→買付」や「売却→買付→売却」することはできない。
「2」について:私の推測ですが、受け渡しが「即時」ということは配当の権利も即時に移行するようになるかもしれません。しかし、こちらは松井証券のウェブサイトでは触れられていませんね。株券の名義の書き換えが即時にできるのか否かがキーポイントとなりそうです。
「3」について:既存の取引所ではデイトレードで同一銘柄を無限に取引することができないのが難点になっています。なぜかというと同一銘柄の回転売買は差金決済に当たるからです。
差金決済が禁止されている上に、株を売ってできたお金が現実に自分のところに来るのにタイムラグがあるため、同一銘柄の自由な回転売買ができないわけです。
松井証券の私設取引システムでは、株を売ってできたお金がすぐに手元に来るわけですから、自由な回転売買ができるのではないかと思われます。
▼今回の松井証券の発表について
PTSを夜間取引市場にせず、昼間の取引市場にするのはおもしろいと思います。夜間取引市場はマネックス証券のマネックスナイターやauカブコム証券(旧カブドットコム証券)の「kabu.comPTS」の方が先行しています。また、夜間市場の本命である「イートレード、楽天証券など5社連合」のPTSの開設が今年度中に予定されており、松井証券が夜間市場に参入してもシェアがあまり望めない状態でしたから。
ただ、はっきり言って、この同一銘柄をループトレードできるというメリットが個人投資家にどれだけ受け入れられるのかはわかりません。
しかし、松井証券のような新しい試みを行う会社がないと証券業界が進歩しませんから、そういった意味では松井証券は貴重な企業だと思います。