■登場人物紹介
兜達也=当サイトの管理人
祐作=モデルは兜の2年下の後輩
祐作:突然ですが、先輩、MSCB(エムエスシービー)ってなんですか?
兜:ふむ、「Moving Strike Convertible Bond」の略称で、日本語に訳すと「転換価格修正条項付の転換社債型新株予約権付社債(CB)」だな。
祐作:???
兜:まあ、これだけじゃ意味がわからないよね。ゆっくり説明していくよ。
祐作:はあ。
兜:MSCBとは、増資と同じように資金調達方法の一種なんだ
MSCBと増資の違いを簡単に説明すると
- 増資は「新株発行数が固定」の資金調達法。
- MSCBは「調達金額が固定」の資金調達法。
と、これだけの違い。まず、増資から説明するよ。
例えば、発行済株数が10万株の企業が5万株の公募増資を発表したとする。公募増資を発表すると1株利益が希薄化するので、普通は希薄化した分だけ株価が下落する。この場合だと、理論的には株価は3分の2になる。
そして、増資は「新株発行の数×株価」の金額が調達金額となるから、株価が下落すれば、それだけ資金調達額が少なくなってしまう。つまり、増資は株価によって調達金額が変わるので、企業にとっては安定しない資金調達方法といえるんだ。ここまで、わかるかな?
祐作:う、な、なんとか。
兜:ふむ。じゃあ、本題のMSCBの説明をするよ。
MSCBは「調達金額が固定」の資金調達法なんだ。例えば、調達金額を100億円としておこう。これを転換社債という形で、資金提供者に買ってもらう。
MSCBは、発行後一定の期間経過後に、転換価格をその時の時価で算定し直す条項が付されている社債だ。株価に応じて転換価格を修正し社債から新株に転換することができる。
- 株価が1万円のときなら、調達資金が100億円だから、MSCBを100万株に転換できる。
- 株価が5000円のときなら、調達資金が100億円だから、MSCBを200万株に転換できる。
- 株価が1000円のときなら、調達資金が100億円だから、MSCBを1000万株に転換できる。
どう思う、これ?
祐作:ど、どうって言われても・・・。う~ん、株価が1000円のときの1000万株というのはすごい数だと思いますけど。
兜:そう、そこがポイントなんだ。転換される株数が多ければ多いほど、MSCBの発行前からあった株式の数が薄まるんだ。
1株利益の希薄化と言えるね。転換される株数が多いほど、株価も下がりやすい。
祐作:う~ん、ということはMSCBを発行する企業は資金調達ができて嬉しいけど、既存株主は嬉しくないってことですか。
兜:そういうことだ。
祐作:あれ、そういえばMSCBを買い取る企業(引受け手)はどうやって儲けるんですかね? MSCBを株に転換してから市場で売るんでしょうか?
兜:いや、それでは遅い。株に転換したら、発行株式数が増えて株価が下がってしまう。
MSCBの引受け手は、普通、株式転換の前に大株主から株を借り、空売りをする(一般信用売り)。その後にMSCBを株式に転換し、株主に株を返す(現渡)。
空売りだから株価が下がった方が儲かる。株を徹底的に売ることによって、「転換価額の修正」にあたる時期の株価を低く誘導する手法を取る。これによって、売った時点での株価よりも低い株価で、株式転換することができ、その差額分を儲けるんだ。
祐作:うわ、空売りですか。えぐいですね。ということは、MSCBを発行した企業の株価は、確実に下がるんでしょうか?
兜:必ずしも下落するとは限らないけど、株価が下がる場合が多いな。転換価額の修正が、数年に1度しかない場合などは、会社の業績が向上していれば、株価が上昇することもある。でも、毎月転換価額を修正しているような場合は、転換による売り込まれる株数と同等の買い手が存在しない限り下落するね。
祐作:なるほど。
兜:必ず下落するとは言えないものの、MSCBを発行した企業の株をホールドし続けるのは骨が折れる。真の成長企業と信じなければ、付き合いきれないよ。